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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

小殿筋

【小殿筋:gluteus minimus】

私は貝になりたい。・・・深い海の底の岩にへばりついて・・・」というのがありましたが、小殿筋は殿部の深い腸骨にへばりついている、貝のような形の筋肉。
神経、作用、機能の面などからは、中殿筋や大腿筋膜張筋との関係が深い。

<解剖>
・腸骨外側面(前殿筋線と下殿筋線の間)より起始し、大腿骨大転子の前面に付着する。
・殿筋群の中でも最も深層、小さく、短く、軽量(David-2011)。
・腱付着部は大転子前方の三角形の領域で、形態は個人差が大きい(Martin-2000)。
・前方線維はほぼまっすぐ走行し、後方線維は大転子に巻き付くように走行(Martin-2000)。

<作用>
主に外転-内旋に作用し、補助的に屈曲があるという記述が多い。
Kapandjiは、外転-外旋-伸展(後方線維)、肢位によっては内転-内旋-屈曲(おそらく前方の線維)にも働くとしている。

<機能>
1)荷重位の骨盤の安定、回旋。
・骨盤が水平に保たれる事で反対側の足が上がる事が出来る(David-2011) 。
・立脚期に骨盤回旋として働き、反対側の遊脚相を効率的に行う(Frank-1989)。
2)股関節の安定化
・主要な機能は大腿骨頭と臼蓋の安定化(Martin-2000)。
・立脚中期から後期にかけて大腿骨頭を寛骨臼に安定(Gottschalk-1989)。
・full stanceからterminal double supportまでの股関節の安定(Frank-1989、Kapandji-1998)。
3)神経、血管の保護
・尾方線維は大坐骨切痕で上殿神経や動脈が損傷されないような役割がある(Martin-2000)。

<歩行>
トレッドミルの小殿筋の糖代謝SUVが中殿筋の約3倍(2008-島田)。
・他の殿筋に比べて高値を示す(2003-Oi) 。
・立脚期では股関節外転機能としては不利 (1958-Kaplan、1981-Markhede) 。

中殿筋とほぼ同様の作用で、その1/3~5程度の力ということで、臨床的にはあまり注目されない。
しかし、不良肢位、オーバーユース、上殿神経に対するなんらかの影響により、小殿筋にトリガーポイントを形成する場合があり、坐骨神経痛様の症状を呈することがある。

<トリガーポイント;関連痛>
・激しい痛みにより跛行が生じる場合があり、睡眠障害を引き起こすこともある(David-2011)。
・前部線維のトリガーポイントは、殿部下方、大腿外側、腓骨部に関連痛が生じ、足首を横切り足背に生じる事はほとんどない(David-2011)。
・トリガーポイントが前部線維にある場合、股関節屈曲位となる椅子からの立ち上がり、車の座位、TV鑑賞、コンピューターの仕事、丸まった寝方では痛みが生じる(David-2011)。
・後部線維のトリガーポイントは、殿部下方と大腿後面、下腿近位に関連痛を生じさせる(David-2011)。
・堪え難く、継続的な深いうずくような痛みが、殿部、大腿後面や外側、足首まで及び、しびれも同じ部位に発生する可能性がある。 (1998-Zohn,1992-Travell and Simons) 。
・座位での財布による圧迫により、阻血が生じてトリガーポイントが形成(1992-Travell and Simons) 。


参考文献
・FRANK GOTTSCHALK et all:The functional anatomy of tensor fasciae latae and gluteus medius and minimus J. Anat. 1989
・KAPANDJI:関節の生理学Ⅱ下肢、1998.
・河上敬介:骨格筋の形と触察法、1999.
・Martin Beck:The anatomy and function of the gluteus minimus muscle、The Journal of Bone and Joint Surgery、82-B(3)、2000.
・解剖学、2001.
・Sahrmann:運動機能障害症候群のマネイジメント、2005.
・ケンダル:筋-機能とテスト、2006.
・河上敬介:中殿筋と小殿筋の位置、理学療法23(8)、2006.
・Diane Lee:ペルビック・アプローチ、2007.
・島田裕之:長時間歩行時の下肢筋の活動状態、理学療法学35(6)、2008.
・林典雄:機能解剖学的触診技術-下肢-体幹、2010
・David Kent: Pseudo-Sciatica and Gluteus Minimus Trigger Points、Massage Today11(5)、2011.
・河上敬介:股関節の動きを肉眼解剖的視点から考える、理学療法学38(8)、2011.
・市橋則明:股関節の動きを運動学視点から考える、理学療法学38(8)、2011.
・Clair Davies:The Trigger Point Therapy Workbook,2013