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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.膝内側側副靭帯:MCL

【膝内側側副靭帯:MCL:Medial Collateral Ligament】

MCLは、浅層線維(sMCL)の脛骨近位部、脛骨遠位部、深層線維(dMCL)の半月大腿部、半月脛骨部の4つの線維からなる。

sMCLは、大腿骨内側上顆から脛骨近位内側面、半膜様筋の終末端の軟部組織に付着する長い線維で、脛骨近位部線維(約12mm)と長めの脛骨遠位部線維(約61mm)に分類される。
膝外反動揺性の主動因子で、外反抑制力の60~80%を占める。
他にも脛骨の回旋(特に外旋)や脛骨の前後方向の制動にも関わる。

dMCLは、大腿骨関節面から内側半月板に付く半月大腿部、内側半月板から脛骨関節面に付く半月脛骨部に分類される。垂直方向に走行する。
機能は、膝外反制動、脛骨回旋、脛骨前方制動の二次的な制動因子である。

MCL損傷は、スポーツなどの活動量の多い20歳代に多くみられ、10歳未満、60歳以降では少ない。
損傷の程度により3つのGradeに分類される。

GradeⅠは、限局した圧痛が認められるが、不安定性、靭帯断裂はない。MRIでは、靭帯組織の伸張、微細損傷、腫脹の所見がみられる。保存療法で良好な成績がえられ、10日前後でのスポーツ復帰が可能となる。

GradeⅡは、Ⅰ度損傷より広範囲の圧痛が認められ、不安定性はないが、不全断裂が生じている。MRIでは、部分損傷、腫脹、浅層の完全断裂の所見がみられる。保存療法で良好な成績がえられ、20日前後でスポーツ復帰できるが、脛骨付着部からの剥離やdMCL損傷のある場合は手術が必要となる。

GradeⅢは、広範囲の圧痛、不安定性があり、完全断裂が生じている。MCL以外の靭帯損傷の合併が8割程度みられる。MRIでは、完全断裂、腫脹、出血と肥厚の所見がみられる。手術療法が推奨され、スポーツ復帰には数ヶ月かかる。

ACL損傷合併例では、MCLの治癒が不十分だとACL再建後の外反不安定性に影響を与えるため、MCL保存治療後にACL手術がよいとの報告もある。

急性期の理学療法は腫脹の管理として、アイシング、超音波、大腿四頭筋セッティングがあげられる。超音波は炎症を助長する可能性も示唆されており、注意が必要である。また、内側構成体の破綻により下腿外旋位が強まり、MCLの伸張刺激が疼痛を誘発している場合は、下腿外旋を解除するような理学療法(VL、ITBのリリースや下腿内旋位でのテーピングなど)も必要となる。

参考・引用文献
・蒲田和芳:膝下腿外旋症候群、sportsmedicine32-35、2001.
・八木茂典:膝ACL再建術後のリハビリテーション、Sportsmedicine114、2009.
・八木茂典:膝関節不安定性に対する理学療法、Sportsmedicine、142、2012.
・高橋美沙:MCL/LCL損傷の基礎、第10回SPTS、2014.
・藤井周 :MCL/LCL損傷の疫学-病態、第10回SPTS、2014.
・吉本真純:MCL/LCL損傷の診断-評価、第10回SPTS、2014.
・中村絵美:MCL/LCL損傷の治療、第10回SPTS、2014.

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MCL損傷は、GradeⅠでも受傷後はとても痛そうですが、初期のRIC(E)がうまくいけば、数日で見違えるほど良くなる印象があります。
ACL損傷や足関節捻挫などに比べて、熱感や腫れがわかりにくですが、軽くクーリング(I)することとテーピングで軽く圧迫(C)、外反、回旋の制動をすることが必要かと思われます。
そして安静(R)、2-3日はなるべく歩き回らないことも重要です。MCLのストレスを回避することはもとより、代償性の歩行様式や筋活動を学習しないためにも数日はおとなしくしていた方が安全です。ただ、受傷年齢が10代後半から20代と活動量が多い年代なので、安静が一番難しいかもしれません。
また、リハに来る時は医師によるMCL損傷の診断がついているので、受傷直後であればストレステストなどはなるべくしないで方がいいと思っています。
急性外傷に関しては、基本的には通常の修復過程に乗っけてあげることが大切。余計なことをやりすぎて、こじらせてしまうことは避けたいものです。