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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.肘の内側側副靭帯損傷(投球障害)

【肘の内側側副靭帯損傷(投球障害)】

<概要>
・靭帯断裂による急性発症と靭帯の疲弊化による慢性発症がある(2008-高原)。
プロ野球選手では靭帯の肥厚が認められる。

<発症メカニズム>
・90°屈曲位で内側側副靭帯に伸張ストレスが生じる(1983-Morrey)。

<特徴>
・損傷者では屈筋の活動が有意に低下(1992-Glousman)。

<症状>
・85%で加速期に肘内側痛(1992-Conway)。
・外反不安定性(2002-Gilchrist)。
・内側上顆-内側側副靭帯に圧痛(2005-Safran)。

<診断基準(1998-西浦、2008-伊藤)>
①局所に限局した圧痛。
②全力投球で初めから痛い。
徒手外反、あるいは過伸展ストレスで疼痛。
のいずれか1項目に加え、
MRIで明らかな損傷像。
⑤ストレス撮影で内側関節裂隙の開大差が2mm以上。
のいずれか1つが陽性であれば内側側副靭帯損傷としている。

<外反制動機能>
・離断により60-70°で外反角度増大(1987-Soibjerg) 。
・損傷により上腕骨滑車後内側と肘頭間の接触面積は小さくなり、接触圧が高まる(2004-Ahmad)。

<破断強度>
・AOL(前斜走線維)260.9N、POL(後斜走線維)158.9N(1991-Regran)。
・投球時には約64N生じる(1995-Fleising) 。

<保存治療>
・疼痛の発生が初回で3ヶ月以内であれば保存療法(2001-Rettig)。
・野球、投擲選手での6ヵ月後の競技復帰42%(2001-Retting)。
・発症後1ヶ月以内であれば1ヶ月ギプス固定し、3ヶ月目から投球動作を開始(2008-古島)。
・第1に投球禁止を主体とした保存療法(2008-高原)。
・不安定性なしまたは軽度で競技復帰しないものが適応(2009-河合)。

<手術療法>
・野球選手での10-12ヵ月後の競技復帰68-95%(1992-Conway、1995-Andrews、2000-Azar、2001-Thompson、2004-Petty、2006-Paletta、Dodson、Koh)。
・保存療法抵抗例では、完全な復帰を希望し、約1年間の治療期間を設けることができる場合には同側の長掌筋腱を使った靭帯再建術を行う(2008-高原)。

<靭帯再建術>
・長掌筋腱によるMCL再建の初期破断強度は33-53N(2005-Armstrong)。
・長掌筋、薄筋、半腱様筋、膝蓋腱による移植腱で破断強度に有意差はないが、正常MCLより有意に低い(2008-Prud)。


参考文献

  :高原正利:野球肘の診断、関節外科27(8)、2008.
  :佐々木淳也:野球肘の超音波診断、関節外科27(8)、2008.
  :古島弘三:野球による肘内側側副靭帯損傷の診断と治療、関節外科27(8)、2008.

 

・藤田真希子:肘関節のバイオメカニクス-内側支持機構-、5thSPTS、2009.
・菅原一博:野球肘-疫学・病態・診断・評価-、5thSPTS、2009.
・河合誠:野球肘-手術療法と保存療法-、5thSPTS、2009.
・川崎渉:肘関節脱臼-疫学・受傷機転-、5thSPTS、2009.