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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.「肩甲胸郭関節を中心とした肩甲帯の運動パターンと機能改善の質的検証」

【長谷川聡ら:肩甲胸郭関節を中心とした肩甲帯の運動パターンと機能改善の質的検証、理学療法学41(2)、2014.】
 
<対象>
・健常男性17名(23.6±3.5歳)。
・肩関節拘縮と診断された15名(55.2±4.1歳)。
 
<測定課題>
・4秒で上肢を挙上する動作を連続5回行い、その時の肩甲骨運動と筋活動を測定。
 
<結果>
1)健常者
・上肢挙上時の肩甲帯の位置にはばらつきがあるが、以下の特徴がある。
・挙上初期は前傾位で、少しずつ後傾し100°付近で後傾位となり、その後さらに大きく後傾する。
・上方回旋角度は、挙上30°~120°間では直線的に増加。
僧帽筋上部、下部、前鋸筋の筋活動は、挙上110°までは直線的に増加する。
・110°付近からは僧帽筋上部はプラトー僧帽筋下部と前鋸筋の活動が急激に高まる。
2)肩関節拘縮者
・一定のパターンはなかったが、以下のパターンは多く見られた。
僧帽筋上部の過剰な筋活動。
僧帽筋下部、前鋸筋の低活動。
・上肢挙上に伴う肩甲骨上方回旋、後傾運動の欠如。
 
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・上肢挙上時の肩甲骨の動きは健常者でも個人差が大きいようですが、挙上30-40°くらいから上方回旋、後傾、外旋、90°以上の挙上で急激に後傾と回旋が大きくなるという報告もあり、おおむね挙上30°くらいから肩甲骨は上方回旋、後傾するというパターンはあるようです。
 
・肩関節拘縮者で多く見られた、僧帽筋上部の過剰な筋活動、僧帽筋下部-前鋸筋の低活動、上肢挙上に伴う肩甲骨上方回旋-後傾運動の欠如は、やっぱりそうなんだと納得させられます。
 
・しかし、拘縮に対して僧帽筋上部の筋活動を抑制し、僧帽筋下部-前鋸筋の機能を上げ、肩甲骨上方回旋-後傾運動を促したら、可動域があがるかというとそうもいきません。あがらないのは機能の問題でなく、関節包や靭帯などの硬さの影響が大きいからです。
 
・自動的にあがっている所までの正常に近い筋活動や肩甲骨の動きを再学習させることは、それ以降の可動域をスムーズに出すためには重要になります。可動域があがって来た時には、その付近は不使用が続いていたため機能障害をきたしていると考えて良いでしょう。
 
・なかにはやみくもにあげようとして、悪い運動パターンを学習してしまい、かえってあがらなくなってしまう例もあります(運動好きの60代くらいの男性に多い)。このような例をつくらない、通常の修復過程に乗っけてあげる、あわよくば加速的な回復を目指すためにも、正常者の動き、拘縮者の運動や機能の違いを知っておくことは重要になります。
 
参考文献