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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

乳児への首へのマッサージ

昨日、生後4ヶ月の乳児へのマッサージ後(うつ伏せで首をひねったり、膝の上に乗せてもんだり)に、低酸素脳症による多臓器不全で亡くなるという事故が起きました。

椎骨動脈や呼吸器機能などに何らかの悪影響を与えたことも考えられます。
乳児では、成人と違って形態や生理的な機能が異なっていたり、不明なことが多いということを考慮しなければいけません。
乳児にわざわざリスクを犯してまでマッサージをする効果や根拠、その知識をもっていたのか。
成人に対するマッサージでも知識や技術が未熟だと重篤な問題を引き起こすこともあります。
一番問題なのは、施術者(この言葉は好きではありません)がそのようなリスクがあることや本来不明なことが残されているということ自体を理解していない場合もあるということです。

以下のように呼吸自体が色々な影響で成り立っていますし、不明なことも多いです。
未発達な乳児に過度の刺激を与えることによって、呼吸中枢に何らかの影響を与えたことも否定できません。

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呼吸中枢
・呼吸運動は自動的に働く呼吸中枢、中枢と末梢の化学受容器などの統合的作用で制御されている。

1)呼吸運動の中枢
・呼吸運動の中枢は、延髄と橋にある以下の4つに分けられる。
①吸息中枢(延髄)
②呼息中枢(延髄)
③持続性吸息中枢(橋)
④呼吸調節中枢(橋)

<延髄:medulla oblongata>
・吸息中枢と呼息中枢は独立に存在するが、特定の神経核はなく、延髄網様体の一部となっている(Pittsら-1939)。
・背側、腹側の2群より構成。
・背側群は、主に吸息時に興奮。
・腹側群は、尾部および頭側には呼息ニューロンが、中間部には吸息ニューロンがある。
・両中枢間の線維連絡は密で、相反的に働いており、吸息中枢を刺激すると全ての吸息筋は収縮し、呼息中枢を刺激すると弛緩し、刺激が強くなると呼息筋に収縮が生じる。
・安静時の呼息は筋弛緩だけで得られ、吸息中枢の抑制で充分である。

<橋:pons>
・下部には持続性吸息中枢があり、延髄の吸息中枢を促通する。
・上端には持続性吸息を周期的に抑制している中枢があると考えられている(Lumsden-1923)。
             
2)呼吸中枢の中枢性制御

<大脳皮質:Cerebral cortex>
・随意的に呼吸運動を制御して発語を可能にする。
・身体運動時にも、運動の開始以前に呼吸が促通されることから、皮質から呼吸中枢へのフィードフォワードの制御があると推測される。

視床下部:hypothalamus>
・運動による体温上昇に反応して呼吸中枢を刺激するが、ヒトへの作用は弱い。

<延髄網様体:reticular formation>
・中枢覚醒レベルを高め、覚醒に伴い呼吸の促通を起こす。

<延髄腹側面>
・延髄腹側表面に水素イオン濃度の変化に敏感な細胞群があるとされているが、組織学的には受容器が同定されていない。
・動脈血の水素イオンの増加による脊髄間質液のph低下、動脈血炭酸ガス分圧の上昇による脳脊髄液ph低下により、換気を促通する。この制御機構は安静時呼吸で役立っている。

3)呼吸中枢の末梢性制御
・延髄の呼吸中枢には末梢の化学受容器、機械的受容器、圧受容器などから信号が送られている。

<頚動脈小体:carotid body>
・左右の頸動脈分岐部1個ずつあり、動脈血の炭酸ガス分圧上昇、酸素分圧低下、ph減少に反応する。
・求心性入力は、頸動脈洞、舌咽神経を経て呼吸中枢に伝えられ、呼吸を促通する。

<大動脈小体:aortic bodies>
・大動脈弓付近の小枝に接合し2または数個存在し、頸動脈小体と同じ働きをする。求心性入力は迷走神経を経由する。

<Herring-Breuer反射(Heringら-1865)>
・肺が拡張されると機械的受容器が刺激され肺迷走神経からの入力が吸息中枢の抑制をもたらし、呼気を促通する。
・ヒトにもこの反射は存在するが、作用は弱い。
・受容器としては、a)下部気道の平滑筋中にある肺伸展受容器、b)肺内の気道表面にあるイリタント受容器、c)肺胞部にあるとされているが同定されていない受容器がある。 

<筋紡錘、腱紡錘、関節受容器>
・筋紡錘、腱紡錘、関節受容器からの入力は、間接的に呼吸中枢を刺激し換気を増加させる。
a)外肋間筋の筋紡錘
・呼息期に伸張され外肋間筋を収縮させる伸張反射を起こす。
・しかし、筋紡錘を支配するγ線維は吸息中枢と同期して活動するため、実際は吸息期に運動神経のインパルス頻度は増強する。
b)横隔膜
・筋紡錘はごくわずかしかない。

<気道粘膜刺激>
・気管や上部気道粘膜に、機械的な刺激を与えると咳反射やくしゃみ反射が生じる。

<血圧上昇>
・動脈血圧が上昇すると呼吸は抑制される。
・しかし、この効果は弱く、生理的にはあまり重要な役割をしない。

<筋、腱、関節の刺激>
・筋運動のときの筋、腱、関節などの受容器からのインパルスは反射的に呼吸を促進する。

<痛覚刺激>
・激しい痛覚によって呼吸促進が見られる。

<その他>
・姿勢反射や自律反射、嗅覚刺激や発声なども関与している。

参考・引用文献
・岩瀬善彦ら編:やさしい生理学(改定第3版)、南江堂、1999.
・杉晴夫編:人体機能生理学(改定第3版)、南江堂、1998.
・真島英信:生理学(改定第18版)、文光堂、1999.