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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.走運動は損傷坐骨神経におけるマクロファージの極性を変化させ神経障害性疼痛の緩和を誘導する

【0852:走運動は損傷坐骨神経におけるマクロファージの極性を変化させ神経障害性疼痛の緩和を誘導する、田口  聖、第49回日本理学療法学術大会(横浜)、2014.】


<方法>
神経障害性疼痛モデルマウスは、坐骨神経部分損傷(PSL)により作製。


・ナイーブ群  :PSLも走運動もしない。

・コントロール群:PSL術後、走運動を負荷しない。

・ランナー群  :PSL術後2日目から5日間、7m/minの走速度で60分間の走運動。


<結果>

 


1)機械的ロディニア(von Frey test)と熱痛覚過敏(Plantar test)を示す閾値

・コントロール群:閾値は低値を維持し、疼痛の持続が観察。

・ランナー群  :閾値は有意に上昇。


2)坐骨神経のマクロファージ

・ナイーブ群  :M1/M2マクロファージが93%

・コントロール群:M1/M2マクロファージが減少し、
                             M1マクロファージが増加。

・ランナー群(コントロール群との比較)

 :M1/M2マクロファージは減少
      M1マクロファージは増加する傾向(末梢側)。 

 :M2マクロファージは有意な増加(結紮部周辺の中枢側)。

 

<マクロファージ>
・M1:炎症性サイトカインを産生して炎症を促進。

・M2:抗炎症性サイトカインの産生やM1の機能抑制を介して組織修復に貢献。

 

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急性期の坐骨神経損傷の痛みに対して、走運動が効果があるようです。

炎症を増悪させないレベルでの早期の運動は勧められるのかもしれません。

 

慢性期の神経損傷では、トレッドミル運動負荷が痛みを軽減させ、痛みの軽減と神経栄養因子との量に相関が見られた(2004-Hutchnson)との報告があります。

臨床でも、慢性期の殿部痛では、走運動で改善することを経験します。

入浴では改善しないことから、血行だけの問題ではないと思っていましたが、筋の運動で分泌される物質などの影響があるのかもしれません。

 

その他、ランニング、ジョギングの効果としては、


<脳機能>

・マウスによる回し車の運動では、海馬の神経新生が2倍増加し、海馬依存性の学習が向上(1999-Praag)。

・最大心拍数の60-70%での35分間のランニングは、認識の柔軟性を向上。

・30分のジョギングを週に2-3回、12週続けると遂行機能が向上。


<大腸がん>

・運動負荷は大腸がんのごく初期段階から抑制効果を示す(2007-Fuku)。

・マウスによるトレッドミル負荷試験で腸管腫瘍の減少が報告(2000-Colbert)。

 

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「人間は年をとるから走るのをやめるのではない。走るのをやめるから年をとるのだ。」

 

「項靭帯は、動物が速く動くときに頭を安定させる働きしかないため、歩く動物には必要ない。大きな尻も必要なのは走るときだけだ。同じように、アキレス腱も歩くときは何の用もなさない。(中略)時とともに変化するうち、人間の身体は走る動物の重要な特徴を採り入れたのだ。」  

BORN TO RUN 走るために生まれた ―ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族”

 

 

 

参考文献

クリストファー・マクドゥーガルBORN TO RUN 走るために生まれた ―ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族”、2010.

J. Ratey、Eric Hagerman:脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方、2009

森本温子:痛み系と運動系のつながりからみた運動療法の可能性、理学療法 2008年10月号、2008.

有働洋:運動が脳機能に与える効果、臨床スポーツ医学 2008年10月号 Vol.25 No.10、2008.

中島淳:生活習慣とがん、臨床スポーツ医学 2008年10月号 Vol.25 No.10、2008.

市橋則明:変形性膝関節症に対する筋力トレーニング、MB Med Reha32、2003.