「脳血管疾患急性期の基本的アプローチと効果判定」より
吉尾雅春:脳血管疾患急性期の基本的アプローチと効果判定、理学療法学38(4)、2011
「多くの脳卒中患者は随意運動の責任を持つ皮質脊髄路を含む大脳の障害」
であることから、
「随意運動によってなされる理学療法(姿勢を正した座位の練習など)は、簡単から複雑という運動療法の原則に反する」
ということです。
「網様体脊髄路や前庭脊髄路、視蓋脊髄路、赤核脊髄路は直接的にダメージを受けていない」
→自動的な姿勢調節は可能
「脊髄小脳神経回路、前庭小脳神経回路が大きく障害されることは少ないため、それらに付随する脊髄路が活用できる」
→荷重による抗重力の活動を期待することができる
このようなことから、歩行訓練が有用のようです。
「直立二足を保障しているシステムは足部が床ときちんと面していること、大腰筋が抗重力筋として機能するようなアライメントが保たれていること」
「姿勢調節機能がうまく働かないとき、いたずらに前頭連合野に過度に調節を期待すると適切な学習にはつながりにくい」
「脳のシステムが混乱して姿勢調節や課題遂行が円滑に行われない場合、装具などにより姿勢調節の援助を行って、脳のシステムの混乱を多少でもおさえ、システムの安定化により前頭連合野の期待を導いていく」
ということで、適切な装具を用いることが重要になるようです。
「『セラピストのハンドリングこそ治療の全てであって、装具を使うのはセラピストの敗北である』という時代があり、理学療法士の装具に対する姿勢を消極的にした。その考え方は大きく様変わりしているが、若い理学療法士に影響を与える年代の経験豊かな理学療法士たちの記憶には、装具は最小限のものを選ぶというイメージが残っており、臨床教育においても影響を与え続けている」
と苦言も呈されています。
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脳機能や脳システムの知識が不足していると、歩行よりも座位姿勢などを安定させてからと考えてしまいがちですが、損傷部位やその働き、そして経路などのシステムの知識があれば、適切なアプローチが行えます。
さらに経験も加われば、どこのどれくらいの損傷なら、どのような歩容になり、どのような装具が効果的か、最終的にどれくらいのレベルになるか、ということもある程度正確には推測できると考えられます。
そう考えると、適切で最善な理学療法を行うには、専門職のなかでもさらに特化した専門家が重要になります。