.痛みの破局的思考「変形性膝関節症の保存療法」より
池本竜則:変形性膝関節症の保存療法、MB Orthop29(3)、2016 より
変形性膝関節症の実質的な痛み(組織の損傷や炎症など)を修飾する因子として、以下のものが挙げられています。
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<変形性膝関節症の痛みに与える影響>
1)年齢、肥満度(Janke-2007、Grotle-2008、Ray、Nguyen-2011)。
2)痛みの感じ方、感受性(遺伝的要因)(Mogil-1999、Zubieta-2001)。
3)薬の鎮痛効果→過去の経験やプラセボ効果の違い(Vase-2002、Colloca-2006)。
4)治療薬に対する期待度の違い(Fields-2000、Wager-2005)。
5)気分-心地よさの違いや変動に伴う痛みの感じ方の変化(Marchand-2002、Villemure-2003)。
6)痛みに対する破局的思考の強さ(Sullivan-1995、Keefe-2000、Somers-2009)。
7)社会的貧しさの影響(Deshilds-1995)。
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6)痛みの破局的思考について
<痛みの破局的思考とは>
・反芻 :自分自身の体が傷ついているという考えをやめられない
・拡大視:何か重大な悪いことが起こるのではないかと心配だ
・無力感:痛みは恐ろしく、圧倒されてしまう
<痛みの破局的思考が強い人は>
・強い痛みを訴えやすい(Sullivan-2006)
・うつや不安感が高い(Keefe-1989、Martin-1996)
・疼痛行動を起こして機能障害を訴えやすい(Keefe-2000、Sullivan-2006)。
・除痛薬を消費しやすい(Jacobsen-1996、Bedard-1997)
・自らの痛みの状態を疼痛行動として表出することで、社会的サポートを引き出そうとする(Sullivan-2009)。
・幼弱期から栽われた一種の患者特性とも考えられる。
<変形性膝関節症との関連は>
・破局的思考の強さが痛み症状に最も関与(坂東-2015)。
→重症膝OAを下肢アライメント、膝周囲筋力、膝関節可動域、痛みの破局的思考、自己効力感などで検討。→痛みの強さと有意な関連があるのは破局的思考の強さと自己効力感の2項目のみで、破局的思考の強さが最も関与。
・破局的思考は、年齢、X線重症度よりも症状や運動機能の反映に重要な要因(Villemure-2003)。
→痛みの強さには破局化や恐怖感が有意な関連因子として抽出。
→痛みの破局化は歩行速度の有意な関連因子。
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痛みの破局的思考の影響は慢性腰痛でよく言われますが、膝OAの痛みに対しても、解剖や機能的な要因よりも破局的思考の影響の方が大きい場合もあるようです。
このような場合、痛みを過度に恐れるあまり、不動状態やかばい動作をつくり、痛みや機能障害が悪化してしまうことがあります。
痛みに関しては色々な要因が影響を与えているのでひとくくりにすることが難しい問題ですが、あまり、痛み自体を悪者扱いせずに、悪いところを教えてくれるサインだという考えも必要かもしれません。
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