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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.アビスパ福岡、石津選手 ACL、LCL、LM損傷

アビスパの石津選手が7月6日の岐阜戦の前半13分頃、右膝前十字靭帯(ACL)、外側側副靭帯(LCL)、外側半月板(LM)を損傷しました。

 

ACL損傷は、接地時に膝の内側への崩れとともに受傷することが多いため、膝の内側にある内側側副靱帯(MCL)損傷、内側半月板(ML)損傷を合併しやすくなります(不幸の3徴候)。

しかし、今回は、LCL、LMと外側の組織が損傷されています。

 

【 】は参考資料よりの抜粋です。

 

1)ACL損傷のメカニズム

ACL損傷は、膝関節軽度屈曲位、外反位での受傷が多く、下腿回旋は一定の見解は得られていない】

 

①膝伸展位

今回の受傷機転は、石津選手がクリアしようとした瞬間に左側後方からボールを奪われ、空振りした足尖が相手の下腿にヒットし、膝が入ってしまったような「過伸展位」で受傷しました。

ACLは伸展位で緊張が高まるので、一時的に「過伸展位」になったことが要因の一つとして考えられます。

【OKCの伸展では、伸展位に近づくほどACLのstrainが高くなる(1986-Renstrom、2004-Heijne)】

【伸展最終域でACLに大きなストレスが加わる(1990-Markolf)】

【膝屈曲から伸展への動きは、自動、他動ともに張力は増大(1998–Beynnon)】

 

②大腿骨に対する相対的な下腿前方位

石津選手は、おそらく相手が来ていたことを察知していたため、トゥキックで早くクリアしようとしているようにみえました。

足関節は固定した状態で接触したため、反作用により下腿には後方への動きが生じたと考えられます。

しかし、下腿の後方の動きが生じて大腿の動きがなければ、下腿の後方制動をしている膝後十字靭帯(PCL)が損傷されるはずです。

したがって、下腿の後方の動きよりも、大腿の後方の動きが勝って、相対的に下腿が大腿よりも前方に位置したことで受傷した可能性もあります。

キック動作時では、股関節屈曲の動きで、股関節より上はその時の肢位により異なりますが、今回は上半身をかぶせており前方への動きがかかっていたと推測されます。

なにもなければ、股関節の強い屈曲の力が生み出されて終わりますが、足先が接触したことで下腿は後方の動きが生じ、膝が過伸展位でロックされた状態になり、股関節より上では前方への動きは制御されず、下腿遠位よりも質量が大きいため大腿骨の後方の動きが勝って、相対的に下腿が前方位になりACLが損傷されたのではないかと考えました。

ただ、このメカニズムだと、はじめにPCLが損傷されそうです。

PCLが損傷されていない解剖学的な理由付けとしては、

ACLよりも強靭】

【伸展位ですべての線維が緊張するが、ACLに比べると低い】

または、大腿骨の後方の動きの方が早かったのかもしれない。

 

2)LCL損傷

LCL損傷を含む後外側組織は、膝関節内反+脛骨外旋、あるいは膝関節過伸展により損傷(2000-Recondo)】

過伸展位での受傷と考えられます。

 

3)LM損傷

膝の伸展位では下腿は外旋するため、過伸展に伴う過外旋がLM損傷の要因と考えられます。

【外旋位で無理やり伸ばしてくると、外側半月板の前方部分を潰すことになり、膝の前外側に痛みを訴える場合がある】

少し強引ですが、接触初期の、下腿後方位での受傷の可能性も。

【荷重位の運動では、脛骨外顆が後方に偏位した状態で膝を最終伸展するため、外側半月板前角が大腿骨外顆との間にimpingeされる場合もある】

 

4)まとめ

いろいろゴタゴタ考えてみましたが、LCL損傷やLM損傷のメカニズムも考慮すると、単純に過伸展が要因のような気がしますね。

 

※低迷してるアビスパにとって、リズムも変えられ、得点力のある石津選手の離脱はかなりダメージが大きいです。

復帰は来季になりますが、アビスパは頑張ってJ2で復帰を待っていてもらいたいものです。

 

参考資料

・長妻香織:ACL損傷理学療法診断ガイドライン理学療法学42(7)、2015

・藤井周 :MCL/LCL損傷の疫学-病態、第10回SPTS、2014.

・鈴川仁人:ACL損傷-解剖学・運動学・バイオメカニクス、CSPT、2009.

・浦邉幸夫:ACL損傷-発症・再発を防ぐトレーニング法、臨床スポーツ医学25(臨)、2008.

・三木英之:非接触型膝前十字靱帯損傷受傷場面の三次元動作解析、臨床スポーツ医学19、2002.

・蒲田和芳:膝下腿外旋症候群、sportsmedicine32-35、2001.

・蒲田和芳:症候群という捉え方と後遺症の問題、sportsmedicine26、2000.