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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.腰部脊柱管狭窄症 ①

【腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal canal stenosis;LSCS)】    

 

先日、日本理学療法士協会から、腰部脊柱管狭窄症の実態調査アンケートが来ましたので、ちょっと調べてみました。

 

まず、腰部脊柱管狭窄症の定義。

 

<NASS-2013年>

・腰椎において神経組織と血管スペースが減少することにより、腰痛はなくてもよいが、殿部や下肢痛がみられる症候群。

 

<腰部脊柱管狭窄症診断ガイドライン(日本)-2011年>

①殿部から下肢の疼痛やしびれを有する

②殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽快する

③歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する

MRIなどの画像で脊柱管や椎間孔の変形狭窄症状態が確認され、臨床所見を説明できる

 

<70歳以上の50%が罹患しているといわれる>

 

ということで、殿部から下肢の疼痛やしびれ(+)、歩行時痛(+)、MRI所見(+)の症例をピックアップしてみました。

 

私が担当する患者の8月1日時点で8月中に予約の入っている人を調査。

127名中26名が該当(腰部脊柱管狭窄による手術歴のある3名は除外)。

男性11名(68.36歳)、女性15名(77.23歳)。

病名は、腰椎変性すべり症13名、変形性腰椎症10名、脊柱管狭窄症2名、腰椎椎間板症1名。

下肢症状は、両側11名、右7名、左8名。

 

レントゲン所見

 

 

L2/3

L3/4

L4/5

L5/S

すべり

23例

L2:2例

L3:8例

L4:13例

 

DLS

10例

 

 

 

 

狭小化

6例

1例

 

3例

2例

Collapse

5例

 

1例

1例

3例

圧迫骨折

5例

T12:2例 L1:3例

 

MRI所見

 

 

L2/3

L3/4

L4/5

L5/S

Stenosis

:軽度-中等度

:高度

37例

  :20例

  :17例

2例

  :1例

  :1例

12例

  :7例

  :5例

21例

  :11例

  :10例

2例

  :1例

  :1例

LDH

8例

1例

4例

2例

1例

SCS

3例

 

 

 

 

 

画像所見無理やりまとめると、L2/3→6例、L3/4→25例、L4/5→40例、L5/S→8例。

やっぱりL4/5が多いですね。

 

<後発部位と症状>

・4/5、3/4ついで5/S。

・L1-4では大腿神経痛、L5-S2では坐骨神経痛、S3以下では会陰部痛。

 

問題点をピックアップして感じたのは、腰部脊柱管狭窄症といっても理学療法を実施するにあたっては、ひとくくりにするのは結構難しいということです。

①解剖学的要因が大きい場合→stenosisやすべりやDLSが高度

②姿勢不良の影響が大きい→sway back、側彎など

③筋力低下による不安定性の影響が大きい

④柔軟性低下による脊柱へのオーバーストレスの影響が大きい

このような要因が影響しあっている場合が多いと考えられます。

 

例えば男性では、①stenosis、②sway back、③殿筋、体幹全面筋の機能低下、④下肢や脊柱起立筋の柔軟性の低下、が多くみられるような気がします。

女性では、①すべりやDLS、②側彎や後傾(骨性支持)、③下肢、体幹筋群の機能低下、④大殿筋や外転筋群が受動的にtightness(側彎が強い場合は一側性に)。

 

そして、どの影響が大きいのか?

①だとすると、理学療法では結構厳しい可能性があります。ブロックや手術か有効になるかもしれません。

②は、③④の影響が大きければ多少変化が期待できるかもしれません。

③④に関しても、機能的な問題と症状出現に関連性があるのかを、考慮する必要があります。ただ弱いとこを鍛えて、硬いとこを柔らかくするだけでは、理学療法とは言えません。

 

男性のsway back例で考えてみると、

sway backによる腰椎の伸展が間欠跛行の要因と推測し、機能的な問題点と考えられた腸腰筋tightness、腰部脊柱起立筋過緊張、体幹前面筋群の機能低下などにアプローチし、sway backや立脚後期の腰椎伸展が抑制され症状が軽減、または悪化を予防できるか?

 

女性の側彎例で考えると、

腰椎の不安定性や側彎による腰椎側屈が間欠跛行の要因と推測し、機能的な問題と考えられた体幹筋群、股関節外転筋群の機能低下などにアプローチし、腰椎不安定性や立脚時の同側側屈が抑制され症状が軽減、または悪化を予防できるか?

 

結構、難しいですよね。

正直、腰部脊柱管狭窄症で理学療法がビタッとはまって改善したと、胸を張っていえる症例は限りなく少ないです。

どうしてかというと

①そもそも狭窄といった解剖学的因子の影響が強い

②長年かけて構築された姿勢や動的マルアライメントを改善するのは難しい

・方言の強い高齢者に標準語を学んでもらうようなもの。

 

でも、上手くいけば半分くらいではよくなります。

 

<経過>

・軽度~中等度の患者のうち、1/3ないし1/2は自然経過でも良好な予後(GradeB-2011)。

・15-48%で自然寛解(Johnsson-1992、Atlas-1996、Simotas-2001)。

・中程度で手術をしなかった32名では、4年後に15%が悪化、70%が不変、15%が改善(Johnsson-1992)。

 

これを、自分が治したと勘違いしている人が多いですよね。

自分が思った問題点が改善されて、症状が軽減してきたとしても、本当にその理学療法がよかったのかははっきりわかりません。

 

だからといって、しなくてもいいかというと、やっぱりしておいた方がいいと思います。

患者教育などを含め、一方的に悪化するのは抑制できると思いますし、経過を追うことで手術などの見極めもしやすくなります。

また、患者さんもDrには直接言いにくい、薬やブロックの効果、手術の希望の有無などを私たちに伝えることで診療もスムーズにいくこともあります。

 

今回、腰部脊柱管狭窄症と考えられる症例をピックアップして感じたのは、いろんなタイプがあるし、問題点も多岐にわたるということです。

ですので、しっかり評価し、統合、解釈し、問題点を出し、理学療法してみて、再評価するという、当たり前のことをしっかりするというのが大切になると思います。

「~の理学療法」といってもあくまで参考程度で、大きなヒントそして答えは目の前の患者さんにあります。

 

参考・引用文献

・岩崎博:放射線学的多椎間狭窄病変に対する術式選択(選択除圧派)、Orthopaedics (オルソペディクス) 2019年 02月号 [雑誌]

・中井修:放射線学的多椎間狭窄病変に対する術式選択(多椎間除圧派)、Orthopaedics (オルソペディクス) 2019年 02月号 [雑誌]

・銅冶英雄:4万人の腰部脊柱管狭窄症を治した! 腰の痛みナビ体操、2017

・腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン、日内会誌、2016

・川下太郎:アミロイドーシスによる手根管症候群関節外科 基礎と臨床 2015年 07月号 [雑誌]

・腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン、2011

・佐々木賢太郎:腰部脊柱管狭窄症罹患者のbody mass indexが安静立位時の重心動揺に及ぼす影響、運動•物理療法21(4)、2010

・林典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 (下肢・体幹)、2010.

・齋藤昭彦:神経系に対するモビライゼーション、理学療法学36(8)、2009.

・佐々木賢太郎:腰部脊柱管狭窄症を罹患する患者の下肢伸展挙上筋力と連続歩行距離の関連性、運動-物理療法19(3)、2008.

・高橋忍:腰痛を呈する疾患とその治療/変形性腰椎症-腰部脊柱管狭窄症、MEDICAL REHABILITATION(98) Monthly Book 腰痛のリハビリテーション、2008

・原信二:腰部脊柱管狭窄症の理学療法プログラム、理学療法25(1)、2008.

・島内卓:腰部脊柱管狭窄症の病態と整形外科的治療、理学療法25(1)、2008

・香川雅春:形態測定としての体格-体型-骨格の測定の実際、理学療法24、2007.

・本田淳:腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症の主な手術と術後のリハビリテーションの留意点、MEDICAL REHABILITATION(no.64) Monthly book 実践腰痛リハビリテーション [ 冬木寛義 ]、2006

・北出一平:脊柱管狭窄症、理学療法学23(1)、2006.

・石井美和子:腰部疾患に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法、PTジャーナル40、2006.

・田中久友:腰部脊柱管狭窄症に対するアンケート調査の有用性、徒手理学療法5(2)、2005 

・花北順哉:腰部脊柱管狭窄症257例の検討、Spinal Surgery 9、1995