.腰部脊柱管狭窄症 ②
<病態>
・脊柱管の狭窄により脊柱管内の馬尾、神経根、神経根栄養血管などが後側方より狭窄されて、阻血やうっ血状態などにより静脈圧亢進や血流低下を招き発症。
<脊柱管が狭窄する要因>
1)椎間板の変性
・椎間板が後方に膨らむと脊柱管と椎間孔が狭くなる。
・椎間板が低くなることで椎間孔が狭くなり、神経根が圧迫。
2)黄色靭帯の肥厚
・黄色靭帯が肥厚すると、脊柱管が狭くなり神経が圧迫。
・黄色靭帯は椎弓間距離の減少とともに膨隆し、微小な不安定性が発生するとさらに肥厚。
3)椎間関節の変形
・椎間関節の腫れや変形により、脊柱管や椎間孔が狭くなり神経を圧迫。
・椎間板の変性に伴い、椎体に骨棘が生じ、脊柱管や椎間孔を狭め、神経を圧迫。
4)椎体の変形
・椎体のずれにより、脊柱管や椎間孔が狭くなり神経を圧迫。
<タイプ>
①神経根型
・椎間孔が狭くなった状態。
・神経根症(坐骨神経痛、下肢のしびれ)を引き起こす。
・下肢痛を主とする単根障害。予後良好が多い傾向(菊池-1986)。
②馬尾型
・脊柱管が狭くなった状態。
・下肢の運動麻痺、閉尿や尿−便失禁、性機能障害などの馬尾症候群があれば、手術の適応。
・下肢、殿部、会陰部の異常感覚、時に膀胱直腸障害を有する多根障害。
・予後不良が多い傾向(菊池-1986)。
③混合型
・根型と馬尾型が混在(菊池-1986)。
<神経性間欠跛行(intermittent claudication:IC>
①関連あり
・SLR筋力:ICを反映する連続歩行可能距離(WC)と相関(佐々木-2008)。
・筋力低下:ICに影響を及ぼす(Mariconda-2000)。
・感覚障害:相関(Lin-2005)。
・痛み:相関(Iversen-2001)。
・阻血(Dong-1989)。
・馬尾、神経根の圧迫(Ehni-1969)。
②関連なし
・各画像所見による狭窄程度:ICを含む神経症状の強さは一致しない(Amundsen-1995、Moon-2005)。
・下肢筋力:有意な関連性は認められない(Stucki-1994、Lin-2005)。
<硬膜圧>
・腹臥位13mmHg、仰臥位18mmHg、正座、胡座、椅子座位の35~42mmHg、直立位67mmHg、前屈27mmHg(2001、2002-高橋)。
・後屈116mmHg、前屈27mmHg(2002-高橋)。
・歩行開始と同時に圧は上昇し、歩行中は上昇と減少を頻回に繰り返す(高橋-2001)。
・歩行中の立脚期に腰椎が最も前彎になり圧が高くなる(2002-高橋)。
・歩行速度が速くなると圧は高くなる(2002-高橋)。
<バイオメカニクス>
・SLRでは、前彎と回旋により脊柱管や椎間孔が狭窄する(佐々木-2008)。
・正常腰椎の腰部脊柱管は伸展(前彎)と回旋で狭窄する(Chung-2000)。
・脊柱屈曲により脊柱管は全体で9cm、腰椎領域で5cm長くなる(1981-Louis)。
<注射療法>
①硬膜外ブロック:有効率50-85%(尾崎-1992)。
②神経根ブロック:有効率60-89%(佐藤-2000)。
<手術適応>
・保存療法が無効、膀胱直腸障害を有する場合(島内-2008)。
・脊柱管が高度に狭窄し神経症状も著名な症例(本田-2006)。
・膀胱直腸障害、保存療法が無効、IMC100m以下、明らかな筋力低下(本田-2006)。
<手術療法>
・罹患機関が長すぎると十分な改善を得られないことがある(GradeB-2016)。
・安静時の下肢しびれは消失しにくい(GradeB-2016)。
・4-5年の経過では70-80%において良好だが、それ以上長期になると低下することもある(GradeC-2016)。
・65歳以上75歳未満と75歳以上の成績はほぼ同等(GradeC-2016)。
・術前にうつ状態があると成績が低下(GradeC-2016)。
・手術治療群は術後4年目までは全般的改善度、患者満足度ともに保存療法群より良好(Atlas-2005)。
・手術治療群の成績は次第に悪化し8-10年目の時点では、保存療法群とほぼ同等(Atlas-2005)。
参考・引用文献
・岩崎博:放射線学的多椎間狭窄病変に対する術式選択(選択除圧派)、Orthopaedics (オルソペディクス) 2019年 02月号 [雑誌]
・中井修:放射線学的多椎間狭窄病変に対する術式選択(多椎間除圧派)、Orthopaedics (オルソペディクス) 2019年 02月号 [雑誌]
・銅冶英雄:4万人の腰部脊柱管狭窄症を治した! 腰の痛みナビ体操
・腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン、日内会誌、2016
・川下太郎:アミロイドーシスによる手根管症候群、関節外科基礎と臨床 2015年 07 月号 [雑誌]
・腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン、2011
・佐々木賢太郎:腰部脊柱管狭窄症罹患者のbody mass indexが安静立位時の重心動揺に及ぼす影響、運動•物理療法21(4)、2010
・林典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 (下肢・体幹)
・齋藤昭彦:神経系に対するモビライゼーション、理学療法学36(8)、2009.
・佐々木賢太郎:腰部脊柱管狭窄症を罹患する患者の下肢伸展挙上筋力と連続歩行距離の関連性、運動-物理療法19(3)、2008.
・高橋忍:腰痛を呈する疾患とその治療/変形性腰椎症-腰部脊柱管狭窄症、MEDICAL REHABILITATION(98) Monthly Book 腰痛のリハビリテーション、2008
・原信二:腰部脊柱管狭窄症の理学療法プログラム、理学療法25(1)、2008.
・島内卓:腰部脊柱管狭窄症の病態と整形外科的治療、理学療法25(1)、2008
・香川雅春:形態測定としての体格-体型-骨格の測定の実際、理学療法24、2007.
・本田淳:腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症の主な手術と術後のリハビリテーションの留意点、MEDICAL REHABILITATION(no.64) Monthly book 実践腰痛リハビリテーション [ 冬木寛義 ]、2006
・北出一平:脊柱管狭窄症、理学療法学23(1)、2006.
・石井美和子:腰部疾患に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法、PTジャーナル40、2006.
・田中久友:腰部脊柱管狭窄症に対するアンケート調査の有用性、徒手的理学療法5(2)、2005
・花北順哉:腰部脊柱管狭窄症257例の検討、Spinal Surgery 9、1995