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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

.腰椎分離症のサイエンス

【腰椎分離症のサイエンス:臨床スポーツ医学 2019年 10 月号 [雑誌]】 より

 

<腰椎分離症>

・腰椎椎弓の関節突起間部に起こる疲労骨折(1984-Fredrickson)。

 

<発生率>

・一般成人約6%:男性8%、女性4%(2010、2009-Sakai)。

・アスリート約30%(2010-Sakai)。

・野球16.4%、ラグビー20.5%(2010-Sakai)。

 

<発症メカニズム>

・腰椎伸展と回旋が繰り返されることで、椎弓の腹尾側に応力が集中し、その部分で骨吸収がはじまり、疲労骨折につながると考えられている(2010-Terai)。

・腰椎の伸展運動および回旋運動が関節突起間部の応力を最も増大(2005-Sairyo)。

 

<分離症の原因>

・下肢柔軟性低下(2018-Iwaki、2017-Sato)→腰部を挟む胸郭や股関節が硬い場合、代償的に腰部が伸展、回旋。

 

<すべり>

・小学生などで骨が未成熟な場合は高率にすべりを生じる(2001-Sairyo)。

・分離滑りは一種の骨端線損傷(2004-Sairyo、2003-Sakamaki)。

・すべりの予防に対してevidenceのある予防策は確立されていない。

 

<骨成熟度の指標(2018-Uraoka)>

・第3腰痛の単純X線側面像。

①cartilaginous stage(C stage)

・L3椎体の隅角に二次骨下核が出現する前の時期で、椎体前縁が階段状凹または丸みを帯びている。

・およそ4-12歳(小学生)。

・スポーツ活動休止に加え、腰椎伸展体幹装具を装着することで機械的ストレスが軽減され、成長軟骨の正常な機能の回復により円形変化が改善する可能性がある。

②apophyseal stage(A stage)

・二次骨下核が見えてきた時期:椎体前縁にring apophysisの像が描出される。

・すべりの発生もしくは悪化は約10%程度(2001-Sairyo)。

・およそ10-17歳(中学生)。

③epiphyseal stage(E stage)

・隅角が完成し、成熟した腰椎になる:ring apophysealと椎体が癒合。

・すべりの発生0%12)、悪化はない(2001-Sairyo)。

・およそ14歳以上(高校生)。

 

<CTによる病期分類(2009-Sairyo、2004-Fujii)>

1)超初期

・CTで骨折線を指摘できず、MRIでのみ信号変化を認める前骨折段階の骨髄浮腫期。

・骨癒合率100%(2017-Sakai)。

2)初期:hair line

MRI STIRで高信号変化、CTでhair line様の微小な骨折線が認められる時期。

・骨癒合率93.8%(2017-Sakai)。

・骨癒合率94%、癒合期間3.2ヶ月(2012-Sairyo)。

3)進行期:clear gap

・骨癒合率80%(2017-Sakai)。

・骨髄浮腫あり:骨癒合率64%、癒合期間5.4ヶ月(2012-Sairyo)。

・骨髄浮腫なし:骨癒合率27%、癒合期間5.7ヶ月(2012-Sairyo)。

4)終末期:pseudoarthrosis

・分離部周辺に骨硬化がみられる(偽関節)。

・骨癒合率0%:保存療法では骨癒合は見込めない(2012-Sairyo)。

 

<保存療法>

・初期と進行期は、体幹部から仙骨部にかかる硬性装具を用いた保存加療、スポーツ休止により骨癒合を目指す(2013-酒巻、2012-Sairyo)。

・装具療法開始2-3ヶ月後、疼痛が消失していたら再度MRIにて骨髄浮腫の確認を行い、消失していたらCT再検査し、骨癒合傾向または骨癒合が認められたらスポーツ用装具に変更し、アスレチックリハビリテーションを開始。

 

<手術>

1)最小侵襲分離部固定術(2019-武政)

・骨移植手技は含まないため、偽関節化した終末期は適応外で、進行期までの分離症を適応。

2)分離部修復術

・適応:活動性の高い若年者、椎間板変性が少なく椎間板性の腰痛が否定的、不安定性がなくすべりを合併していてもMeyerding grade Ⅰまで、終末期の腰椎分離症、各種保存療法に抵抗性の腰痛、分離部由来の腰痛(分離部ブロックで疼痛消失)。

 

<競技復帰>

・保存療法での競技復帰率92.2%(2018-Overley)。

 

<再発>

・骨癒合が得られ競技復帰した46例中12例(26.1%)に再発がみられた(2017-Sakai)。

・82名中8名(9.7%)で約14.1か月後に別高位や対側で再発を認めた。

・ストレッチ指導などで再発率の低下(2017-Sato)。

 

<経年的変化>

・両側分離がある場合は、一般成人と比べ腰痛を発症する可能性は高い(2015-Brinjikji)。

・両側分離の60歳以上では、過半数で椎体分離の滑りをきたす(2017-aoki、2009-Sakai)。

・手術を要するほどの重度の腰部障害をきたす可能性は、正常人と比べて必ずしも多くない(2018-Aoki)。

 

 

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・小学生くらいの分離症では、骨癒合の可能性が高く、またすべり症のリスクも高くなることから、硬性コルセットの装着とスポーツ休止が必要かつ重要になる。

・この場合の、理学療法士としての役割としては、身体を動かしたい年頃の子供に対して、正確な情報を本人や親に理解してもらい、運動休止やモチベーションを維持してもらうことが大事であると考えられる。

・また、硬性コルセット装着時の運動療法として、体幹や下肢のストレッチが紹介されていたが、硬性コルセットによる制限下で効果的なのかということは検証が必要かもしれない。

・腰椎分離症の発症メカニズムとして、下肢柔軟性の低下が基盤とあり、その代償として腰椎の伸展、回旋運動が生じているため、腰椎伸展に対しては股関節伸展を制限する股関節屈筋、腰椎回旋に対しては股関節回旋を制限する回旋筋群がターゲットとしてより重要になると考えられる。

・さらに、スポーツにより発症メカニズムは変化する。野球のバッティングでは回旋要素、サッカーのキックでは伸展要素が大きいと考えられるため、そのようなことも考慮し、再発予防に取り組むことが必要だと感じた。