足関節前方インピンジメント症候群
ジェフからセレッソに移籍した為田選手が、足関節前方インピンジメント症候群で手術になりました。
千葉からC大阪移籍のMF為田が練習中に違和感…手術を受けて全治3か月 | ゲキサカ
足関節の前方に骨ができてきて、足首を反らしにくくなったり、その時に痛みが出るというものです。
手術の成績は良好なものが多いので、また切れのあるドリブルが見られると思います。
【前方インピンジメント:衝突性外骨腫(impingement exostosis)】
<衝突性外骨腫:impingement exostosis>
・過度の繰り返される足関節背屈による増殖性の骨変化(O’Donoghue-1957)。
<概要>
・骨棘が足関節背屈時に衝突し、疼痛や背屈制限が生じる(奥田-2010)。
・サッカー選手に多く、footballer`s ankleとも呼ばれる(奥田-2010)。
<病態>
1)骨棘
・脛骨前縁または距骨滑車前縁に生じた骨棘や小骨片のような異常な骨組織により生じる(高尾-2010)。
・足関節前面の軟部組織の絞扼の原因となりうる(Luis-2003、Peace-2004、Sanders、Hopper-2008、Linklater-2009)。
・足関節の前方中央のくぼみが病変部で、骨棘や遊離体はそこから発生し症状を引き起こす(Linklater-2009)。
・関節包付着部ではなく関節包内に形成(Tol JL-2004、Hopper-2008)。
・骨棘や小骨片が存在しても、45-59%では無症状(Cheng-1998)。
※骨棘の場所
①距腿関節前面(Linklater-2007、Cerezal、Sanders-2008、岡田-2010)。
②脛骨天蓋前縁
:関節包内(Berberian-2001、Luis-2003、Hopper-2008、奥田-2010)。
:中央から外側にかけて存在することが多い(Berberian-2001)。
③距骨頚部
:上縁、近位(Berberian-2001、Luis-2003、Hopper-2008、奥田-2010)。
:上縁では中央から内側にかけて存在することが多い(Berberian-2001)。
2)足関節前面の軟部組織の肥厚(Hopper-2008)111)。
・前方の疼痛や背屈制限は、前方の関節包の肥大や滑膜増生も要因(Tol-2002)。
<要因>
①軟骨損傷(変性)
・捻挫による足関節前方の軟骨損傷→骨棘(Sanders-2008、岡田-2010)。
・距骨頚部内側に発生する骨棘は関節包の付着部より近位の関節内に発生するため、繰り返しの微小損傷によるもの:Osteophyte(Hayeri-2009)。
・足関節外側不安定性により回外捻挫が繰り返されることにより前内側縁の関節軟骨が損傷(Van Dijk-1997)。
・足関節捻挫による脛骨下端前方と距骨頚部背側の衝突による骨軟骨損傷の修復機転による骨棘発生(梅ヶ枝-1988)。
・足関節不安定性による関節包の牽引と軟骨変性の結果として骨棘が発生(梅ヶ枝-1988)。
②微小骨折
・繰り返しの背屈により脛距関節の前方縁の衝突による微小損傷の修復による線維性もしくは線維軟骨性の増殖が骨棘を発生(Luis-2003、Sanders、Hopper-2008、Linklater-2009)。
・繰り返される足関節背屈や足関節前面の直達外力により脛骨天蓋および距骨頚部上縁の関節軟骨や骨が損傷され、その修復過程で骨棘が形成されると考えられる(O’Donoghue-1957、Tol-2002)。
③関節包や靭帯の牽引
・繰り返す内返し損傷や最大底屈でのキックの繰り返しにより関節包や靭帯の牽引により骨棘が発達(Luis-2003、Sanders、Hopper-2008、Linklater-2009)。
・距骨頚部外側に発生する骨棘は関節包の付着部に隣接して発生するため、関節包や靭帯の牽引によるもの:Enthesophyte(Hayeri-2009)。
・足関節不安定性による関節包の牽引と軟骨変性の結果として骨棘が発生(梅ヶ枝-1988)。
<症状>
①背屈時の前方の疼痛(Sanders-2008)。
・可動域制限や背屈時の疼痛→しゃがみ込みや階段の昇りで増悪(岡田-2010)。
・足関節の前面部痛は背屈制限を特徴(奥田-2010)。
②圧痛:足関節の内側前方で骨隆起が触知(内山-2010)。
③内反不安定性(内山-2010)。
<画像所見>
1)単純X線
・側面像:脛骨、距骨前面の骨棘の評価に有用(岡田-2010)。
:側面像:脛骨下端前方と距骨頚部背側に骨棘(内山-2010)。
・正面像:距骨内側に骨棘(内山-2010)。
2)CT
・骨棘の部位、形態、遊離体のの存在の確認に有用(岡田-2010)。
3)MRI
・通常必要としないが、骨棘の大きさ、滑膜増殖、線維組織の確認、軟骨下骨の浮腫、側副靭帯
複合体損傷、距骨の骨軟骨損傷、関節内遊離体などの評価に有用(岡田-2010)。
<分類(Scaanton-1992)>
・GradeⅠ:脛骨前縁のみに骨棘が存在し、その径が3mm以下。
・GradeⅡ:脛骨前縁のみに骨棘が存在し、その径が3mm以上。
・GradeⅢ:距骨滑車前縁にも骨棘を伴う。
・GradeⅣ:関節全体の変形性関節症変化を伴うもの。
<治療>
・インソールやテーピングによる内反制動効果による衝突の防止(内山-2010)。
<手術>
・骨組織、肥大した関節包、増生した滑膜の切除(高尾-2010)。
・手術による骨棘の切除(内山-2010)。
・足関節外側不安定性を合併する例では、再発するため、同時に靭帯再建などを行う必要がある(Van Dijk-1997)。
・靭帯機能不全による不安定性増加の場合は、外側靭帯の再建を検討(内山-2010)。
<術後経過>
・効果は高く、疼痛の解消、足関節背屈制限の改善によるパフォーマンスの向上(内山-2010)。
・術後翌日より全荷重歩行可能(内山-2010)。
・3Wよりジョギング開始、6Wでスポーツ復帰可能(内山-2010)。
参考文献
・原口直樹:足関節前外側軟部組織インピンジメントと足関節靭帯のバイオメカニクス、関節外科29(7)、2010
・奥田龍三:足関節インピンジメントの病因・病態、関節外科29(7)、2010
・岡田洋和:足関節インピンジメントの画像診断、関節外科29(7)、2010
・高尾昌人:足関節インピンジメントの足関節鏡診断、関節外科29(7)、2010
・安田稔人:足関節後方・内側軟部組織インピンジメントの病態と治療、関節外科29(7)、2010
・内山英司:スポーツによる足関節インピンジメントの病態と治療、関節外科29(7)、2010