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整形外科クリニック理学療法士のひとり言。読んだ本、理学療法、サッカー観戦などとりとめなく

CRPS:複合性局所疼痛症候群

【CRPS:複合性局所疼痛症候群】

近年CRPSは、身体機能の問題だけでなく、脳機能不全の影響が大きいと考えられてきています。
CRPSの運動障害は、 患肢の視覚情報と体性感覚情報の統合の障害に起因しており、各種感覚情報を統合する脳領域である前頭頂間野、中頭頂間野、下前頭皮質(Brugger-2000)や身体イメージを構築する後頭頂葉などに機能不全が生じているとされています。
健常者でも自己身体に関する視覚情報と体性感覚情報を一致させないようにし、知覚-運動ループを破綻させると、疼痛などの異常感覚が出現する(McCabe-2007) という報告もあります。

また、CRPSでは体部位再現地図が、患肢領域では縮小、顔面では拡大しており(Pleger-2004)、体部位再現領域が本来の位置から離れるほど痛みの強度が強くなる(Maihofner-2004)と報告されています。
この体部位再現領域の縮小は、治療(理学療法、非ステロイド療法、抗うつ薬)により改善し、感覚受容野間が拡大(Maihofner-2004)することから不可逆的な変化ではないといえます。

このような脳機能低下により、CRPS患者では身体イメージの障害(Lewis-2010)、運動実行時に比べて運動イメージ時の脳内活動が低い(Gieteling-2008)といったことが生じています。
身体イメージが障害され、自己身体の帰属感が失われるとその身体部位の皮膚温が低下(Moseley-2008)するという報告もあり、自律神経活動との関係も示唆されています。

したがって、視覚情報と体性感覚情報の再統合化により体部位再現地図や身体イメージの改善を図っていくことが、治療戦略の一つになると考えられます。
感覚の入力情報に関しては、体性感覚情報より視覚情報がかなり優位であるため、視覚情報をいかにコントロールするかが重要になると考えられます。視覚情報で良い情報を入れ、悪い情報を遮断し、体性感覚情報とすり合わせていくことが必要になるかもしれません。

視覚情報の入力の方法の一つとしては、鏡療法があります。患肢を隠すように鏡を置き、健肢を使って患肢が動いているかのように錯覚させるもので、CRPSに対してではありませんが脳機能や疼痛の改善が報告されています。
・幻肢患者では患肢を表象する体部位再現地図が拡大(MacIver-2008)し、随意運動獲得時には前頭前野の賦活化を伴う(Giraux-2003)。
神経障害性疼痛患者22例中10例で50%以上、5例で30-50%の疼痛緩和(Sumitani-2008) 。

鏡療法を用いて体性感覚情報と再統合化させるには、鏡療法を行いながら患肢を健肢の動きに合わせて他動的に動かすのがよいのかもしれません。しかし、CRPSでは患肢の近くで空気が動いても痛いという例もあり、痛みを出さないでどうやって体性感覚情報とすりあわせていくかは色々と工夫が必要になるかもしれません。

参考文献
住谷昌彦:認知神経科学に基づく疼痛治療、理学療法学39(8)、2012.
森岡周;痛みと情動の脳内機構とリハビリテーション、TAP講習会、2013